”食”に携わるモノとして、材料を提供してくださっている作り手である農家の方とお話し出来ることは とても貴重な時間で、実際に会ってお話しをお伺いすると、私たちの生活にも直結する、そこから見える様々な課題や未来など、考えさせられることが多いです。
改めて、ナカツカサファームさんに訪問した時のこと。
日本が抱える食の課題や未来なども整理してみたいなと思います。
目 次
ナカツカサファームさん訪問
兵庫県の豊岡市出石町で有機野菜や蕎麦、小麦をつくられているナカツカサファームの中務さんは、有機小麦の「ゆきちから」「鴻巣25号」などのオーガニック小麦を栽培・収穫・脱穀から製粉まで一貫して全てを、自分の手で作られております。
今回で2回目となりますが、ナカツカサファームさんのところへ bakery+ arinomammaさんと訪問させて頂きました。
奈良から片道約3時間。自然がいっぱいの山道。
車の窓から入ってくる澄んだ空気が、現地に着く頃には心まで浄化してくれるようでした。
山間部にあるナカツカサファームの圃場(ほじょう)は、有機栽培のため そのほとんどが自然のままで、中務さんに案内された山や湧き水からは自然の豊かさを感じました。
前回伺わせて頂いた時は有機小麦「ゆきちから」の収穫時期で、今回は蕎麦の播種(はしゅ)が終わり、忙しさにもひと段落されたころで、有機栽培で育てられた野菜たちや、小麦を収穫した後の作業場、精麦された小麦の実などを丁寧に説明して見せてくれました。
有機小麦への挑戦
中務さんが十数年前に、お子様のアレルギーをきっかけに、奥様のご実家である豊岡に移住された当初は、農業で食べていくには厳しい環境で、制度や助成などもなく 手探りでやっていくしかなかったと言います。
知識や助けもほとんどない中、試行錯誤を繰り返していくということは想像を絶する状況だったと思います。
今でこそ国産小麦の名前をよく耳にするようになりましたが…
十数年以上前に、
北海道や九州でもなく関西で、
しかも、パンに使える有機小麦を選択されたことはとてもすごいことです。
こうやって3時間程度の距離に、国産の有機小麦に触れられるということが、どんなに有難いことかと思います。
そんな中務さんに現状を聞いてみると、投資のかかる小麦の栽培や、除草剤などを使わない有機栽培では除草が追いつかず、肥料や土の課題なども重なり収量が減っているそうです。
中務さんは、それは農家として言い訳でしかないと言い切り
「農業は1年単位。試行錯誤もまだ十数回しか出来ていない。」
と言ってのける姿には頭が下がる思いでした。
日本の食料自給率
小麦といえば、
袋に入ったモノで、細かく白い粉の精製された状態でしか見たことがないという人がほとんどじゃないでしょうか。
僕自身、ナカツカサファームさんにお伺いさせて頂いた時に製粉されていない小麦を見るのは初めてでした。
日本のベーカリーやパティスリーなどにおいて、材料の大部分を占める小麦粉は、そのほとんどが外国産に頼っているところが大きく、僕が業界に入った時は国産小麦は値段が高くて、あつかいも難しいという印象でした。
しかし、日本の食料自給率を考えると
いつまでも外国産に頼っているわけには いかないかもしれません。
ところで、日本の食料自給率が何パーセントかご存知でしょうか。
日本の食料自給率は、2020年でカロリーベースで37%、生産額ベースでは67%と、年々横ばいか低下傾向になっており、主要先進国の中では低い水準になっています。
これはカロリーベースでみた時に、みなさんが食べている37%を国産で、残りの63%を外国産に頼っているということになります。
カロリーベースと生産額ベース
カロリーベースとは
国民に供給される熱量に対する国内生産の割合を示す指標。
1人1日当たり国産供給熱量÷1人1日当たり供給熱量
=カロリーベースによる食料自給率生産額ベースとは
食料自給率とは『農林水産省ホームページ』
国民に供給される食料の生産額に対する国内生産の割合を示す指標。
食料の国内生産額÷食料の国内消費仕向額
=生産額ベースによる食料自給率
品目別にみた時、米や野菜に関していえば、食料自給率はそれほど低くはありません。
低い水準になっている主な要因には、急激な食生活の変化にあります。
海外の食生活が取り入れられたため、小麦や油脂類、肉などの畜産物の摂取が増えたことにより、全体的に食料自給率を下げる結果になっています。
食料自給率が低いとどうなるのか
海外に頼っている状況の何が問題なのかというと、
日本の人口は減少傾向にあるかもしれませんが、世界人口は増加傾向にあります。
人口増加による世界的な食糧不足や途上国の先進化、昨今の新型コロナウイルスや紛争・気候変動による輸入先での不作や価格高騰などによって、私たちは振り回されることになります。
さらにはTPP(環太平洋パートナーシップ)によって輸入品に対する依存度が上がれば、食料自給率のさらなる低下もあるかもしれません。
一度変えてしまった食生活レベルをまた変えていくことは中々難しく、また不況が続けば、質がいいと理解していても大量生産でつくられた安価なモノを選ばざるを得ないのが現実でしょう。
では自分たちに何ができるのでしょうか。
自分たちにも出来ること
日本の食料自給率といわれても、話が大きくて現実味がないかもしれませんが、今回の新型コロナウイルスで気づいたり、学んだこともあるかと思います。
コロナ禍での身近な飲食店支援という形は、飲食店だけでなく材料を提供しているメーカーや農家の方などに対しても支援することが出来ました、その繋がりや共感を感じられた人も少なくないと思います。
情報化が進んだことにより、今まで見えなかった課題を知ることで、個人でもSNSなどでシェアしたり何かしらの形で協力することが出来ます。また目に見えることによって持続性が上がり、少しずつ意識を変化させることも出来ます。
では身近なところで、他にも自分たちの周りで起きている課題は何があるのでしょうか。
食品ロスの改善
まだ食べられるのに捨てられてしまっている「食品ロス問題」
「食品ロス」の削減が、食料自給率の向上に繋がる可能性は十分あります。
国産の食品を高めつつ、食品ロスを軽減させ輸入食品をカバーすることが出来れば、カロリーベースによる分母と分子の数値を改善させ、食料自給率を向上させることが可能かもしれません。
これはお店と家庭の両方で解決していかなければならない課題のひとつです。
食品ロスの量は日本だけで年間600万トンにもなっており、飢餓で苦しむ人たちの食料援助量(年間約420万トン)の1.4倍に相当します。
その内54%が食品小売や外食・製造業などの事業系ですが、残りの46%は実は家庭から出たものになっています。世界的にみても食品ロスは問題になっており、年間13億トンもの量が廃棄されています。
食べるためにつくった食品なのに、その3分の1を捨ててしまっているという矛盾。
そして日本は食料自給率が足りていないにも関わらず、コストやエネルギーをかけて、わざわざ外国から輸入までして食べ物を捨ててしまっていることになります。
買い物をする前にはチェックして、買い過ぎないようにしたり
食材の保存方法を見直したり、冷蔵庫の残り物を工夫して料理したり
食べ過ぎたり、必要以上にお店では注文しない等、自分たちにやれることは結構ありますね。
農家の方に耳を傾ける
普通に生活していて、切り身になってスーパーに並んでいるお魚やお肉、精製された食品しか見ていないと、消費者と農家の方との間には大きな溝を生むばかりになってしまっていることを、農家の方とお話ししていると痛感します。
安心安全に食べられる食品というのは、様々な規制や基準が設けられています。
その基準を守ることも大事ですが、そこにかかる労力や苦労は実際にお話しを聞いたり、目で見ない限りは実感しにくいこともあります。
他にも農業への就農・後継者問題や、日本の少ない土地や面積などを考慮した時の耕作放棄地の再利用など課題はたくさんあります。
誰のための食品なのか
最近の検査では、外国産小麦を使った一部の日本の食パンから、除草剤などの農薬で使用されているグリホサートが検出され、特に健康的と思われていた全粒粉のパンからはその濃度も高いことが報じられショックを受けたことを覚えています。
誤解しないでほしいのですが、決して輸入食品の全てが悪いわけではありません。
海外と比べると日本はオーガニック食品の普及は遅れていて、日本で手に入らないオーガニック食品は海外から仕入れているのが現状です。
私たち消費者やお店を運営する飲食店が考えるべきことは、食品を選ぶ側はいつも自分たちであり、今一度、誰のための食品なのか考える必要があるということです。
ただ悪いニュースだけでなく、ここ十年近くは食の志向のトレンドは健康志向で意識は高まっており、今では農家の方を応援しているレストラン・カフェ、ベーカリーやパティスリーなども随分増えてきました。
業界に入った時は高いと感じた国産小麦ですが、中務さんだけでなく、他の農家の方のお話しを聞くと、その労力などを考えれば決して値段も高くはなく、健康で透明なモノとして手にした時に、それが正当な対価として認められていくように、改めて作り手の顔が見えるようにしていく必要があるなと想いを強くすることが出来ました。
CRAFT + FOOD CO.
代表 甲斐 優志